本日の改訂から

論語の本章は、読むそばから贋作と分かる話。あるいは単に次章の注釈だったかも。晋が趙・魏・韓に分裂した戦国時代より前には遡らず、おそらく孟子が滕の文公の顧問だったことを知っていた者による捏造で、定州竹簡論語にあることから、前漢宣帝期までの作品と分かる。

加えて「謂」の用法、つまり「曰」「言」との違いの分かる男(?)による作品で、となると肌身でその語義を知っていた、戦国時代の儒者による作品だろう。なお『論語集釋』には、適材適所の例として論語の本章を引用した『漢書』の記事を引いている。

薛宣字贛君,東海郯人也。…以明習文法詔補御史中丞。

頻陽縣北當上郡、西河,為數郡湊,多盜賊。其令平陵薛恭本縣孝者,功次稍遷,未嘗治民,職不辦。而粟邑縣小,辟在山中,民謹樸易治。令鉅鹿尹賞久郡用事吏,為樓煩長,舉茂材,遷在粟。宣即以令奏賞與恭換縣。二人視事數月,而兩縣皆治。宣因移書勞勉之曰:「昔孟公綽優於趙魏而不宜滕薛,故或以德顯,或以功舉,『君子之道,焉可憮也!』屬縣各有賢君,馮翊垂拱蒙成。願勉所職,卒功業。」

漢書 班固
薛宣、あざ名は贛君、東海郡郯県(山東省)出身である。…法律に詳しいという事で、御史中丞(事実上、全官吏の監察長官)になった。

…頻陽県(陝西省渭南市付近)と言えば、北に匈奴との最前線である上郡・西河郡を控え、前線と帝都長安を繋ぐ要地だが、どういうわけか両郡によく似て住民にDQNが多く、盗賊が横行して、手が付けられなかった。

その県知事を務めた平陵(山東省歴城県)出身の薛恭は、もとは地元の豪族から「親孝行だ」という評判で役人になった男だが、少しづつ功績を重ねて昇進したものの、まともに民を治めたことがなく、知事として役立たずと言われていた。

ところで当時粟邑県(西安市付近)という小さな県があり、僻地のうえ山の中にあった。おかげで住民はまじめな者が揃っており、統治しやすかった。鉅鹿(河北省)出身の尹賞が、長く県知事を務めていたが、その間に地元の有力者と結託して私領化のおそれが出たので、他の誰かに知事を任せようということになった。

そこでダメ知事の烙印を押されていた薛恭を、薛宣が粟邑県知事に推薦して任じられ、尹賞は入れ替わりに、DQNの待ち構える頻陽県の知事に転任した。だが二人が着任して二ヶ月過ぎると、不思議にも両県そろってよく治まった。

薛宣はこの人事に苦慮した日々について、薛恭への手紙にこう書いている。

「むかし、孟公綽は趙・魏の大臣ならよく務まったが、滕や薛の家老には向かなかったという。人には向き不向きがあって、人柄が善い者もいれば、仕事の出来る者もいる。見抜いて使わないと、”せっかくの君子が、腐って使いものにならなくなる”。今回の人事で、両県付近の各県の知事は、帝都長安近郊まで見習ってまともになった。君もどうか、まじめに働いて職を全うしてもらいたい。」(『漢書』薛宣朱博伝5)

何だか薛恭ばかりが一方的に得をしているように見えるが、人事とはこういうものかも知れない。ただし薛宣と薛恭は姓氏を同じくし、出身地から見ておそらく同族である。要するにいかにも中国らしい縁故主義ネポティズムであり、誉められた話ではないかも知れない。

https://hayaron.kyukyodo.work/syokai/kenmon/344.html

なお前漢劉向の『戦国策』は、「卞莊子はマヌケだ」と言いたげな伝説を載せている。

有兩虎諍人而斗者,管莊子將刺之,管與止之曰:「虎者,猁蟲;人者甘餌也。今兩虎諍人而鬥,小者必死,大者必傷。子待傷虎而刺之,則是一舉而兼兩虎也。無刺一虎之勞,而有刺兩虎之名。」

劉向
(楚が斉を滅亡させるべく兵を起こそうとした。楚王に仕えていた陳軫が、故郷の秦に帰り、秦王に言った。)むかし虎が二頭、どちらも人を食おうとして、先に虎同士で食い合いました。管荘子が虎を槍で突こうとすると、管与が言いました。

「お待ちなさい。虎は兇暴この上なく、それに比べたら人間はエサに過ぎません。今二頭が噛み合っていますから、もうすぐ小さい方が食い殺されるでしょう。加えて大きい方も、怪我をしているでしょう。手負いの虎を突いた法が楽ではありませんか? これぞ一挙両得、二頭トラ捕らえ放題です。世間には大手を振って、”トラ二頭をやったぞ”と言えますよ?」

(楚と斉が戦って弱ったところで、負けそうな方にお味方なさいませ。たっぷり恩が売れますぞ?)(『戦国策』秦策二2)

https://hayaron.kyukyodo.work/syokai/kenmon/345.html

「其」は”それは”。詳細は論語語釈「其」を参照。定州竹簡論語では「豈」を「幾」と記しているが、意味は同じで「強い肯定となる反語」と『学研漢和大字典』に言う。詳細は論語語釈「幾」を参照。

だが前半「其然」は”その通りだ”で、後半「幾其然乎」は”どうしてその通りだろうか、決してそうではあるまい”の意で矛盾している。『学研漢和大字典』を編んだ藤堂博士は、論語本で”その通りであろう。だが本当にそうなのであろうか”と訳し、矛盾を解決している。

現代北京語では、原則として肯定文はそのまま疑問文にはならないが、上古の中国語にはその可能性があり、前半を疑問文と解し、”その通りなのか。どうしてその通りだろうか”と訳した。

例えば甲骨文の記事はボク文=占い文ゆえに半分以上が疑問文だが、特に平叙文と書き分けず疑問辞も付けない。甲骨に刻むにしろ青銅に鋳込むにしろ、筆記にはコストが掛かったからでもある。『論語集釋』に引く『論衡』では、「豈其然乎」を二度繰り返したことになっている


おくり名のタネ本とされる『逸周書』諡法解によれば、公叔文子の諡号「貞惠文子」は次の通り。

清白守節曰貞。大慮克就曰貞。不隱無屈曰貞。外內用情曰貞。
”身ぎれいで筋を通した人は貞という。思慮深くて仕事を成し遂げた人を貞という。逃げ隠れせず頑張った人を貞という。内外の事情に通じた人を貞という。”

柔質慈民曰惠。愛民好與曰惠。
”物腰が柔らかで民を可愛がった人を恵という。民を可愛がってよく与えた人を恵という。”

經緯天地曰文。道德博厚曰文。勤學好問曰文。慈惠愛民曰文。愍民惠禮曰文。錫民爵位曰文。
”天地を知り尽くした人を文という。道徳的で人格者を文という。学問を好みよく調べた人を文という。恵み深くて民を可愛がった人を文という。民を憐れんで丁寧に扱った人を文という。民によい身分を与えた人を文という。”

https://hayaron.kyukyodo.work/syokai/kenmon/346.html

文とはもと文様のことであり、のちに漢字を意味するようになった。漢代に紙が実用化されるまで、文字は甲骨や青銅器、または石や絹に記されたため、費用と手間暇が掛かり、また知識も必要だった。宋代に儒家が官界をほぼ独占すると、文字そのものを崇めるようになった。

これは宋代の儒学が朱子学に代表されるような、オカルト半分の黒魔術だったことも起因しているが、文字を読む者=儒者の権威を一層高め、つまりは利権やワイロを社会から取り尽くす手段でもあった。「敬惜字紙」=字の書かれた紙を敬う、という言葉はこの頃からになる。

それゆえ学校や科挙の試験場の類には、「惜字炉」という、反故紙専用の焼却炉が設置され、一般のゴミと混ぜるなどとんでもない不敬とされた。wikipedia敬惜字紙条に引く「惜字律」=字を敬う規則には、次のようなことが書いてある。

  • 平生偏拾字紙至家,香水浴焚者。萬功。增壽一紀。長享富貴。子孫榮貴。
    ”普段から文字の書かれた反故紙をまちから拾い集め、持ち帰って香水を焚き恭しく昇天させた者には、一万の御利益がある。まず十二年寿命が延び、歳と友に財産と地位が上がり、子孫が繁栄して栄職に就く。”
  • 見人作踐字紙。能以素紙換焚。或以他物換焚者。五十功。百病不生。轉禍為福。
    ”他人の反故紙を新品の紙やその他の物品と交換し、恭しく焚き上げた者には、五十の御利益がある。病気にかかっても悪化せず、災いが福に転じる。”
  • 生平不輕筆亂寫,塗抹好書者。十功。永無凶事。
    ”普段から文字を尊んで丁寧に書き、見目よく記す者には、十の御利益がある。めったに災難に遭わなくなる。”
  • 字紙糊窗墊,褙屏表書者。定冤枉不明。
    ”字の書いてある紙で窓を張り、ついたての裏打ちに使ったやからは、無実の罪に落とされて助からない。”
  • 己身不敬字紙經書。又不訓教子弟,遞相輕侮者。一百罪。惡瘡遍體。生癡聾暗啞。
    ”文字の書かれた紙や儒教の経典ををバカにして、子供に儒教を教えず、代々儒教を軽んじるやからは、百の天罰が当たる。体じゅうが出来物だらけになり、知能や体に不自由のある子供が生まれる。”

こういう無神経には怒りを覚える。マルセイユで意識無き人種差別に遭った時を思い出しもする。儒者は人々を脅し、孔子以前の儒=拝み屋に本卦帰りした。そしてこの残忍な滑稽は、海の向こうの話と笑えない。朱子学にイカれた𠮷外儒者が、明治時代に似たことをしたからだ。

内村鑑三不敬事件がそれで、明治帝の名を記した紙を拝まなかった、との理由で袋だたきに遭った。それが通ってしまったから、𠮷外儒者や神主がのさばり、ついには壊滅的な敗戦を迎えることになった。世に𠮷外の種は尽きないだろうが、くれぐれも気を付けるべきだろう。

詳細は日本儒教史を参照して頂きたいが、21世紀の今になっても、𠮷外が国内外の政界でのさばっている。人に生まれつき賢愚の差がある以上、誰が何をしようと止められないことではあるが、𠮷外を分別することは出来る。他でもない孔子がすでに、無神論者だったのだから。

詳細は孔子はなぜ偉大なのかを参照されたい。

https://hayaron.kyukyodo.work/syokai/kenmon/post-8246.html

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