本日の改訂から

劉邦は中年過ぎまで郷里で無頼を働き、即位後も生涯一不良を貫いた。口うるさい儒者の説教など大嫌いで、儒者のかんむりに酒臭いしょうべんを引っかけてやる、と息巻いた。だが唯一じじいの説教だけは、即位後も晩年に至るまで鄭重に聞いたと『史記』が書いている。

吾求公數歲,公辟逃我,今公何自從吾兒游乎?

劉邦「こ…これはご老人方、それがしが何年呼び申し上げても、それがしを避けておいで下さらなかったに、今愚息と共においでなのは、何故ですかな?」(『史記』留侯世家24)

優男の張良に従ったわけも、それで無理やり付けることができる。だが陸賈は長生きもしたのだろうが、活動時期から見て若造だったはずの所、不良で儒者嫌いの劉邦が従った。何かにビビったのでなければあり得ない。目の前で、人の一人や二人殴り殺して見せられたのだろう。

「ろくでもない君主」と言われて許したのはそれゆえだ。だがこの不良のバクチは死後に当たった。陸賈は劉邦死後に呂后の一族が帝国を乗っ取ると、隠居を装って政界に根回しを始め、軍の幹部を焚き付け、呂后が死ぬと即座に呂氏を打倒、漢帝国を復活させた。

https://hayaron.kyukyodo.work/syokai/eireikou/394.html

論語の本章にこと寄せて、清朝考証学を興した顧炎武は、次のような罵倒を書いている。『論語集釋』に引用された部分のみ記す。

飽食終日、無所用心、難矣哉、今日北方之学者是也。羣居終日、言不及義、好行小慧、難矣哉、今日南方之学者是也。

顧炎武
膨れた腹を抱えて一日中ごろごろと過ごし、何一つ考えようとしない。救いがたい馬鹿者どもだ。今の華北の儒者はどいつもこいつも、こういうやからだ。

わあわあと集まって一日中過ごし、本質は誰も言わず、小ヂエばかり自慢し合っている。救いがたい馬鹿者どもだ。今の華南の儒者はどいつもこいつも、こういうやからだ。(『日知録』)

ただし高名な清儒だからとて顧炎武の罵倒の尻馬に乗る必要は無い。顧炎武は明の万暦年間から滅亡に至る苦難の若年期を過ごした後、中年以降は希代の名君である清の康煕帝による善政と、それを支えた都合のよい気候など地球環境の恩恵をたっぷり受けた。人は時代の子であって、通時代的に普遍的価値のある個人の言葉は、そんなに多くない。

顧炎武は漢人としての矜持から、清朝には仕えず在野の半儒者半道士として過ごした(道士は弁髪を免除されていた)が、清朝も時代が下った道光年間、清儒・夏錫疇が論語の本章にこと寄せて次のように書いている。これも『論語集釋』に引用された部分のみ記す。

羣居終日、言不及義、好行小慧、此学校不修、教学不明之故也。後世糾党立社、標榜声誉之徒大率如此。求其講学以明善取善而輔仁者、殆無有也。人材之所以日壊、世道之所以日病、其不以此歟。

論語 清儒
馬鹿が集まって一日中、本質は誰も言わず、小知恵ばかり自慢し合う。この原因は、学校がダメになり、教師がろくでもないからだ。

時代が今に近くなるにつれ、馬鹿が集まって派閥争いを繰り広げ、他者をこき下ろし自分らだけを清浄な儒者だと言い張ったが、そうやって群れた連中こそが、論語に言う馬鹿の集まりなのだ。学問を究め、善とは何かを問い、人間にふさわしい憐れみ深さを養おうとした者はほとんどいない。

だから世に人は多くても、役立つ人材は日増しに少なくなり、世間の風潮も、日増しに下らなくなったのだ。論語が歎いたのは、まさにこのことではあるまいか。(『強學録』)

中華王朝の高級官僚採用試験を科挙と言い、儒者に生まれればそれを目指すのが当たり前だったが、科挙は本来学校制度とセットで、何段階かある試験のほとんどは、本来国立学校の入試だった。だが日本と同じく中国の学歴は、何を学んだかではなく、何に通ったかが問われる。

だから試験に受かってもまじめに学校に通う者は居なくなり、政府も金のかかる学校は放置するのが当たり前になった。勢い上の話のように、学校は荒れるに任されるのだが、ただ毛沢東と並ぶ中国史上最悪のシリアルキラーである明の洪武帝は、なぜか学校制度を重視した。

理由は多分、根がまじめすぎたからだろう。
洪武帝

『強學録』が世に出た道光十四年(1834)は、中華帝国として高慢ちきを誇っていた清朝が、アヘン戦争で鼻っぱしを折られる6年前だが、そうなるにはそうなるだけの、社会の淀みがたまっていたらしい。古典にかこつけて現世をくさしたり歎いたりするのは、後漢以来の儒者の悪い癖だが、この話に限ればそうでもないような気がする。

https://hayaron.kyukyodo.work/syokai/eireikou/395.html

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