尚賢,使民不爭;不貴難得之貨,使民不為盜;不見可欲,使心不亂。是以聖人之治,虛其心,實其腹,弱其志,強其骨。常使民無知無欲。使夫知者不敢為也。為無為,則無不治。
賢きを尚ばざらば、民を使て爭わ不らしめん。得難きの之貨を貴ば不らば、民を使て盜みを為さ不らしめめん。欲むる可きを見さ不らば、心を使て亂れ不らしめん。是れ以て聖人之治は、其の心を虛しするも、其の腹を實たす。其の志いを弱くするも、其の骨を強くす。常に民を使て知る無く欲め無くす。夫の知(さかしら)なる者を使て敢えて為さしめ不る也。為す無きを為さば、則ち治ら不る無からん。
「人材募集」などと言い出さなければ、我も我もと押し合いへしあいが起こらない。何でも買えるカネなど世に撒かねば、ドロボーは出ない。物欲を刺激するものを見せねば、ほしがってイライラする者は出ない。だから万能の者の政治とは、民の要らん欲望を無くす代わりに、腹一杯食わせてやる。欲しい欲しいといらつく心を弱める代わりに、保健衛生を充実させる。民の「これがいい!」と欲しがる余計な心や、「何かいい事ないかな」と探し回るのをそもそも思わせないように管理する。「これはよいものである」という価値判断が、そもそも間違っているからだ。だから最初から、要不要の判断などさせない。こういう判断をさせなければ、世が乱れる道理がない。