本日の改訂

千乘之國

乗 戦車 字解

論語の本章では”戦車千両を動員できる国”→”諸侯国”。”大国”と解すると春秋時代の語義から外れるばかりか、文意も通じない。

孔子の生前、生国の魯でも千両程度の戦車は持っており、その保有国を”大国”と見なす考えは無い。文献上で”大国”の風味﹅﹅を言い出したのは孔子没後一世紀に現れた孟子だが、「万乗の国」に次ぐ規模の国として述べており、必ずしも”大国”のつもりで言ったとは限らない。

…上下交征利而國危矣。萬乘之國弒其君者,必千乘之家;千乘之國弒其君者,必百乘之家。

孟子
…(孟子が梁の恵王に説教した。)殿さま、よろしゅうございますか。殿さまも家来も自分勝手に欲をむき出しにするから、国が危うくなるのですぞ。その結果、隙あらば万乗の国を奪ってやろうと千乗の家臣がたくらみ、千乗の国を奪ってやろうと百乗の家臣がたくらむ世の中になってしまいました。殿さまも首をちょん切られたくなかったら、よぉくそのあたりをお考えになって下さい。(『孟子』梁恵王上)

春秋戦国の世で最大規模の国と言えば周王朝、それに次ぐ規模の国と言えば諸侯にほかならないから、”諸侯”を口じゃみせんで”千乗の国”と言い換えただけと解した方がいい。

千乘は大國也(『論語集解義疏』本章の「疏」)

対して漢儒は無考えなまま「千乘」→”大国”だと言い回った(『小載礼記』坊記篇など)。論語の本章に古注を書き付けた南北朝の儒者も、本文がこのあと「大國の閒にはさまり」とあるのをまじめに読まず、やはり無考えなまま”大国”と記した。

論語の本章の前後は次のようになっており、「千乘之國」が「大國之閒」に「攝る」と解さないと文意が通じない。中国語は古来SVO構造の言語だからだ。

千乘之國(S)、(V)乎大國之閒(O)、加之以師旅、因之以饑饉 外字(=饉)

また「千乘」=「大國」になるなら、”大国が大国に挟まって、そこに軍事攻撃を加え、饑饉に苦しめられる”と解するしか無いが、大国同士が国力に任せて好き勝手な抗争をしているところへ、孔門の重鎮である子路がのこのこやってきて、手助けしてやる必要がどこにあるだろうか。

おそらく本章を偽作した漢儒の腹づもりでは、子路はすぐに出しゃばる、いかつい筋肉ダルマなのだが、それでも孔子一門が大国に手を貸してやる絵図は描いていなかったはずで、弱きを助け強きをくじく正義の味方であらねばならない。古注儒者の不真面目がどこまでひどいかお分かりだろうか。

なお「千乘之國」について詳細は、論語学而篇5語釈も参照。

https://hayaron.kyukyodo.work/syokai/sensin/278a.html



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